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2017.07.27

「誰もが、当たり前に働いて生きていける」を体現 ――九神ファームめむろが取り組む“農福連携”のカタチ【後編】

(文:はたらくNIPPON!計画 取材班)

北海道の十勝平野中西部に位置する、芽室(めむろ)町で、2013年4月に開所した就労継続支援A型事業所「(株)九神ファームめむろ」。農業と自社生産物の活用により、障害者の雇用と自立という、農福連携を実現しています。【前編】では、ここで働くサービス利用従業員の姿、事業を継続できるスキームについてお伝えしました。続く【後編】では、九神ファームめむろが生まれたきっかけである「プロジェクトめむろ」の取り組みについて、キーパーソン2人の声を紹介します。

雇用の場を作ることで、
この町で生きる障害者を支えたい

「九神ファームめむろ、さらには一般企業や役場での働きぶりを見ると、彼らの潜在能力の高さには舌を巻くほど。もっとはやくに気づいていればと後悔するほどです」と打ち明けるのは、芽室町の宮西義憲町長です。

宮西義憲町長。「『就労体験をさせたい』と親御さんから要望を受け、役場で就労体験を実施したところ、熱心に集中して真面目に働く姿を目の当たりにし、教育のその先にある雇用、働き生きていける環境が必要だと痛感しました」

宮西町長は2006年から現職として芽室町の行政に携わっていますが、その前は教育長として子供たちを見守ってきました。「ある日、平日なのにも関わらず、小学生の女児が自転車をこいでいる姿を見かけました。障害のため不登校で、毎日図書館に通っているというではないですか。何かすべきと思ったのが障害者と関わり始めたきっかけです」

宮西町長はその後、障害を持つ児童が通う小学校に補助教員の配置・増員、町長に就任してからも、障害のある子どもの子育てサポートファイル「めむたっち」の作成を通じた個別支援、役場での就労体験など、幅広い施策を実施してきました。

一方で、この町で生きていくためには、将来の働く場も必要です。町の資源を活かし、継続的な雇用と収入を確保できる場所を作りたいとも考えました。「約2年をかけて多くの企業に相談しましたが、色よい返事は得られず…。困り果てていたところ知ったのが、高知県にあるエフピコダックス株式会社です」

エフピコダックスは、広島県に本社を構え、食品トレーなどの製造・販売を手掛ける株式会社エフピコの特例子会社。障害者雇用の取り組みを検討している他企業をサポートしていることでも知られています。且田久雄社長に相談したところ、「芽室町には豊富な農産物があり、それをビジネスにしてみては?」とのアドバイス。これを受け、2012年8月に「プロジェクトめむろ」が発足し、同社の且田久美さんがアレンジを担当することになりました。

宮西町長のインタビュー当日は、プロジェクトめむろを担当した役場職員さんも同席。いまでは、関係部署が連携を図り、日々のサポートや一般就労移行支援を促すため、企業へアプローチも行っています。

ビジネスとして整合性があり
フルタイム勤務の職場を創出

且田さんはこれまで、エフピコグループで約370名、クライアント企業のコンサルティングで約700名、計約1000名以上の障害者雇用を支援してきたという方です。今回のプロジェクトに当たり浮かんだのは、エフピコの重要な取引先で、かつ農産物の安定供給を必要とし、障害者雇用にも実績のある惣菜製造・販売を手掛ける株式会社クック・チャムでした。

「十勝ブランドの野菜は道内外で人気があり、かねてから北海道で自社農園を持ちたい、障害者雇用を拡充したいというニーズは藤田敏子社長からお聞きしていたので芽室町とのマッチングを図りました」

且田さんは翌月にクック・チャムを含む出資企業候補を確定、その後、プレゼンを実施します。「出資していただくにあたり最重視したのは、ビジネスとしての整合性でした。クック・チャムは大切なお取引先であり、失敗は許されません。土地や建物、JAとの連携、運搬・供給、コストなどについて詰め、3か年の収支計画書をまとめて提案しました」

地域住民が主体のプロジェクトですから、スタッフは現地採用にこだわり、利用者の雇用もフルタイム勤務で最低賃金以上の水準というのも、クリアすべき課題だったそうです。

「農業で癒しやリハビリ効果を目指すのではなく、生産をきちんと上げ、生活できる給与を支払えば雇用は安定し、彼らも頑張れます。福祉だから誰かの自己犠牲や負担を強いるのではなく、参加する全員が何かを受け取れるという仕組みを整える必要がありました」

九神ファームめむろにおけるキーセクションとの関係性。すべてのセクションに対して、各々が提供するものと享受できるものを明確にしていることが特徴です。「福祉だからといって、誰か・何かにとって犠牲や不均衡が生じては事業が継続ができません」(且田さん)

役場の協力も仰ぎながら、住民やJAめむろといった関係者にも丁寧に説明を行い、理解を得られることに。「行政と協働することで、地域の扉を開きやすいということは多々ありました」と且田さんは述べる一方で、宮西町長も「そこは行政に求められる役割でしたから、惜しまず尽力しました。且田さんは、スピード感をもって事業所開設を形にしていき、これも行政には真似できないことです」と互いを評します。

その後、12月には法人設立登記、2013年1月から2月にかけては骨子の決定~就労継続支援A型事業所の認定、そして4月には障害者雇用9名で事業が始まりました。後の躍進は【前編】でご紹介した通りです。

農福連携を通じて、
ますます広がるプロジェクトの輪

九神ファームめむろのお披露目式の当日。宮西町長はそこで、驚くべき光景に直面しました。

「従業員のひとりに、自転車の少女がいたのです。私のことを覚えていて『これから頑張ります』と言ってくれました。いまは町内企業へ就職し、活躍の場を広げています。今春は彼女を含め計4名が一般就労へ移行し、九神ファームめむろでの経験のおかげと実感するばかりです」

「誰もが、当たり前に働いて生きていける」を体現した、プロジェクトめむろを起点とした取り組み。「今後は、十勝管内でのクック・チャム店舗の開業などを通じて事業を拡大しながら雇用を確保、ただしA型としての規模は大きくせず、通過点として一般就労を押し上げていきたい考えです」と、且田さんも今後の展望を述べます。

最後に、且田さんに障害者雇用に対するアドバイスをお聞きしました。

「障害者の自立が目的であれば、やはりビジネスとしての整合性がポイント。コスト計算、収益を生む仕組みなど、事業と雇用のバランスを学び、それを実現できるものが見つかれば、農業であれ何であれ実践することです。」

取材を終えて…

現在、プロジェクトめむろはNPO法人化し、外食事業の「ばぁばのお昼ごはん」の運営、芽室町地域企業への就労達成定着支援、農業体験を受け入れる就労キャリア教育観光事業と、その活動範囲は広がるばかり。農福連携をきっかけに、障害者雇用を取り巻く環境は大きく改善・進化しつつあります。今後の展開からも目が離せそうにありません。

芽室町の中心街にある「ばぁばのお昼ごはん」。九神ファームめむろで収穫した野菜は、ここでも使われています。運営するのはNPO法人プロジェクトめむろで、ランチタイムは満席になることも!

九神ファームめむろのサービス利用従業員の皆さんが、ローテーションで勤務。大きな卵焼きは人気メニューのひとつです。具だくさんのお味噌汁は、一つずつ調理。使用する食材は地産地消にこだわり、農場で収穫された野菜もふんだんに使われています!
一般就労へ移行し、「国民宿舎 新嵐山荘」に勤務する、粟野功好さん。「施設内の清掃やベッドメーキングを担当しています」といいます。同所は障害者の雇用に積極的で、採用を増やしたい考えです。プロジェクトめむろは、町の姿を確実に変えつつあります。

 

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